「人間国宝」制度について
2023年7月23日
ここでは、いわゆる「人間国宝」制度について説明します。
「人間国宝」とは
時折ニュースなどで聞かれる「人間国宝」という言葉。
ここでは、いわゆる「人間国宝」制度について解説します。
いわゆる「人間国宝」とは、「重要無形文化財」の「各個認定保持者」の通称です。
この言葉の意味について紐解いていきましょう。
文化庁は、「無形文化財」について、以下のように示しています。
演劇、音楽、工芸技術、その他の無形の文化的所産で我が国にとって歴史上または芸術上価値の高いものを「無形文化財」という。
無形文化財は、人間の「わざ」そのものであり,具体的にはそのわざを体得した個人または個人の集団によって体現される。
文化庁>無形文化財
一般に、文化財とは「文化的に価値のあるもの」といえますが、
「無形文化財」とは「演劇、音楽、工芸技術、その他の無形の文化的所産」のうち、
「我が国にとって歴史上または芸術上価値の高いもの」と定義しています。
つまり、無形文化財とは、現物を伴わない無形のものとして文化的に生み出されたものであり、
かつ歴史上または芸術上に価値の高いもののことといえます。
「歴史上または芸術上」というのが大きな条件で、
「価値が高いもの」(例えば価格が高いもの、人気があるもの)であっても
「歴史上」または「芸術上」の最低どちらか一方にあてはまらなければ、無形文化財とはいえないのです。
文化庁は続けて、「重要無形文化財」を、以下のように示しています。
国は、無形文化財のうち重要なものを重要無形文化財に指定し、同時に、
これらのわざを高度に体現しているものを保持者または保持団体に認定し、我が国の伝統的なわざの継承を図っている。
保持者等の認定には「各個認定」、「総合認定」、「保持団体認定」の3方式がとられている。
文化庁>無形文化財
「重要無形文化財」とは「無形文化財」のうち重要なもののことで、
建造物や美術工芸品という有形の「重要文化財」と対をなす概念です。
国(文化庁)は、「重要無形文化財」を「認定」することで、
「我が国の伝統的なわざの継承」を図っているとしています。
なお、有形の文化財の場合は単に「指定」といいますが、
無形文化財の場合は特定分野を「指定」した上で、対象を「認定」するという二段階を踏みます。
認定の3方式について、文化庁は以下のように区分しています。
区分 | 認定の対象 |
---|---|
各個認定 | 重要無形文化財に指定される芸能を高度に体現できる者または工芸技術を高度に体得している者 |
総合認定 | 2人以上の者が一体となって芸能を高度に体現している場合や2人以上の者が共通の特色を有する工芸技術を高度に体得している場合において、これらの者が構成している団体の構成員 |
保持団体認定 | 芸能または工芸技術の性格上個人的特色が薄く、かつ,当該芸能または工芸技術を保持する者が多数いる場合において、これらの者が主たる構成員となっている団体 |
このうち、「各個認定の保持者」を、いわゆる「人間国宝」と呼んでいます。
「いわゆる」という言葉がつくのは、「人間国宝」という言葉を定義する法令上の根拠がないためです。
もともと「人間国宝」という言葉自体が、生きている人間を有形文化財である国宝に例えた「俗称」なのですが、
文化財を所管する文化庁がこの言葉を「いわゆる『人間国宝』」として事実上追認し、また多用していることから、一般社会の幅広い場面で通用しています。
認定は文化審議会の答申に基づいて行われ、各個認定はその人物の死亡によって解除されます。原則として生存中に解除されることはありません。
なお、総合認定の例としては「能楽」「人形浄瑠璃文楽」「歌舞伎」など、保持団体認定としては「伊勢型紙」などが挙げられます。
重要無形文化財の保持のための具体的な施策として、例えば「人間国宝」に対して年額200万円の特別助成金が交付されています。
この助成金について、一人につき億円単位の税金が支払われている等という俗説がありますが、全くのデタラメです。
一人につき年額200万円が全てです。それ以上でもそれ以下でもありません。
以上、いわゆる「人間国宝」制度について解説しました。参考になれば幸いです。
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