はじめて文楽

2023年7月7日

このページにたどり着いた方の中には、初めて文楽(人形浄瑠璃)をご覧になる、または興味を持った方がいらっしゃるかと思います。
ここでは、主に初心者の方向けに現代の文楽公演について簡単に説明します。

はじめに

皆さんは、どのようなきっかけで人形浄瑠璃・文楽に興味を持たれましたか。
私は、歌舞伎の原作が文楽にあると知り、見比べる意味もあって観劇を始めました。
歌舞伎がよく観られている東京圏ではそのような観客が多いようです。
一方、郷土芸能としての人形浄瑠璃からプロの文楽に関心を持つ方もいらっしゃるでしょう。
どんな形であれ、人形浄瑠璃・文楽に関心を持って頂けるのは筆者としてはありがたいことです。

人形浄瑠璃(文楽)は、江戸時代初め頃に、平曲(平家物語の読み聞かせ)などを起源とする浄瑠璃と
傀儡師(くぐつし)などと呼ばれた人形使いが合体して誕生した日本独自の人形芝居です。
歌舞伎などとともに日本を代表する伝統文化・古典芸能の一つで、1955年には重要無形文化財に指定。
2008年にはユネスコ無形文化遺産の一つとなりました。

文楽(人形浄瑠璃)=江戸時代の3Dアニメ

人形浄瑠璃は、江戸時代を通じて歌舞伎や相撲と並ぶ人気を誇った一大娯楽でした。
明治維新を迎えて苦難の時を過ごしますが、様々な人の手を経て現在まで保存・鑑賞されてきました。

江戸時代に大衆娯楽だった人形浄瑠璃は、もちろん当時の一般人向けに書かれて演じられてきた作品です。
歌舞伎より早い段階で古典への道を歩み始めたこと、また多くの作品が大坂(大阪)の言葉で書かれていることから
とくに関西圏外の共通語話者にとっては内容(文楽は語り物なので「詞章」(ししょう)と言います)の理解が難しいのですが、
同時解説「イヤホンガイド」や、販売プログラム付属の「床本」(ゆかほん/文楽の上演台本のこと)、
語りの内容を表示する字幕装置など、より楽しく鑑賞するためのさまざまな手段が用意されています。

歌舞伎が江戸時代の実写連続ドラマだとすれば、人形浄瑠璃は江戸時代の3Dアニメといえるでしょう。
どちらかといえば歌舞伎が生身の人間の身体的魅力によるところが大きいのに対して、
人形浄瑠璃は作品の内容面が主な評価基準になることが実写たる歌舞伎とアニメに近い人形浄瑠璃の違いをよく表していると思います。
語り手・人形遣いの技量が細かな鑑賞対象とされるところも、現代アニメの受容形態と似ていると考えています。

それでは、現代の人形浄瑠璃文楽について見ていきましょう。

文楽は人形浄瑠璃の通称

この記事が属するカテゴリー名でも、上段の内容でもそうですが、「文楽」と「人形浄瑠璃」の表記が混在しています。
これは一体どういうことなのでしょうか?

文楽とは、江戸時代末期の人名及び劇団名が由来です。
「植村文楽軒」(うえむらぶんらくけん)という人物が大坂(大阪)で始めた「人形浄瑠璃」の芝居は
はじめ「文楽の芝居」と呼ばれましたが、次第に「文楽座」と名前を改めます。
この「文楽座」が、明治維新から現代に至る歴史の荒波を乗り越えて残った唯一の「人形浄瑠璃」の劇団になったため、
現代に残る人形浄瑠璃を通称して「文楽」と呼び、その劇団を今でも「文楽座」と言っているのです。

つまり、「文楽」は正式に言うと「人形浄瑠璃」という芸能のカテゴリーに属する人形芝居の一つなのですが、
単に文楽と言っても現代においては他の人形浄瑠璃と区別する必要がないためこのように呼ばれています。

本サイトでは単に文楽と記すことが多いかと思いますが、歴史的側面を語る場合は人形浄瑠璃という表現も使用します。

(太夫+三味線)+人形=文楽

文楽は、物語の語り手=太夫(たゆう)、情景を描写する演奏家=三味線、人形遣いがあやつる=人形
という三種類の担い手から成り立っており、これを文楽の三業(さんぎょう)といいます。

このうち、太夫と三味線による語り・音楽を「義太夫節」(ぎだゆうぶし)といい、太夫と三味線の組み合わせを「床」(ゆか)と言います。
「義太夫節」とは、江戸時代の元禄年間(1700年頃)に活躍した「竹本義太夫」(たけもとぎだゆう)という人による語り物のことです。
以前はさまざまな流派の音楽と人形が結びついていたのですが、竹本義太夫の義太夫節の登場により一変し、
人形浄瑠璃には「義太夫節」が欠かせない物になり、最終的に義太夫節による人形浄瑠璃のみが残りました。

文楽はどのように公演しているか

現在、文楽公演は大きく分けて「日本芸術文化振興会」が主催する本公演と、「文楽協会」が主催する地方巡業公演があります。
この合間に、1日や数日の短期公演が挟まります。

日本芸術文化振興会の文楽における拠点は大阪・日本橋(にっぽんばし)にある「国立文楽劇場」です。
劇場の制作スタッフは大阪に所属し、東京公演の際は技芸員(ぎげいいん。文楽の出演者のこと)とともに同行します。
東京においては、文楽公演の上演を前提として建設された「国立劇場」(本館)の小劇場を利用していました。
しかし、国立劇場が建て替えのため2023年10月末で閉館することから、2023年8~9月公演をもって初代国立劇場での公演を終了し、
建て替えが終わるまでの間は「シアター1010」(北千住)や「日本青年館ホール」(外苑前)などを利用して公演活動を継続することになっています。
今後のスケジュールは未定ですが、これまでの活動実績は
・大阪:1月、4月、6月(鑑賞教室)、7~8月、11月
・東京:2月、5月、9月、12月(鑑賞教室)
と、大阪で年5公演・東京で年4公演を行っていました。

大阪にある文楽協会が主催する巡業公演は年2回で、毎年3月と10月に行っています。
大阪・東京の劇場公演の間に実施していることがわかります。

チケットの入手方法

最後に、チケットの入手方法について説明します。

チケット入手の基本は、劇場や主催者の公式サイトや電話予約で購入することです。
国立劇場・国立文楽劇場は「国立劇場チケットセンター」を設けています。
巡業公演を担う文楽協会はチケットを取り扱っていないので、劇場又は主催者から購入することになります。

文楽は、定員500人~700人程度の「中劇場」と呼ばれるサイズの劇場で公演されることが多いです。
太夫や三味線による音楽面を気に入ったなら義太夫節がよく聞こえる席、繊細な人形の動きが好きなら人形の近く、
舞台全体を眺めていたいなら劇場後方など、自分の好みの席を探してみてください。

以上、参考になれば幸いです。

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